演題:糖尿病性腎症に上皮下側・基底膜内の高密度電子沈着物と足細胞陥入を認めた一例
満生浩司1) 末廣貴一1) 佛坂早紀1) 片渕律子2)3)
1) 原三信病院腎臓内科、2) 加野病院腎臓内科、3) 福岡東医療センター
【症例】60歳代男性
【主訴】下腿浮腫、陰嚢浮腫
【現病歴】
定期的に健康診断を受けていたが病院は受診したことがなかった。少なくとも数年前より健康診断で、高血圧、高血糖、肝機能障害、尿蛋白、尿潜血、便潜血陽性を指摘されていた。
X年3月より陰嚢浮腫、両下腿の浮腫を認め当科受診した。その際、血圧173/92mmHg、Alb 2.3g/dl、Cr 1.37mg/dl、尿蛋白(3+)、尿潜血(2+)、尿中蛋白/Cr比3.4g/gCr、尿中赤血球5-9/HPF、HbA1c 7.4%、CH50 <5 U/ml、C3 118mg/dl,、C4 21.1mg/dl、HCV-Ab 15.13 S/COを認め、精査加療目的で当科入院となった。
【既往歴】15歳:虫垂炎
【家族歴】腎疾患なし
【生活歴】喫煙:10本/日、飲酒:なし、アレルギー:なし
【入院時現症】身長:167cm、体重:64.5kg、血圧:138/92mmHg
[胸部]心音・呼吸音異常なし [腹部]腹水(+)、軟、圧痛(-) [四肢]下肢浮腫(2+)、皮疹(-)、背部に手のひら大、手に小さな刺青複数
【眼科】前増殖性糖尿病網膜症(+)、原発開放隅角緑内障(+)
【入院後経過】
糖尿病網膜症を認めまずは糖尿病性腎症を疑ったが、他の糸球体疾患合併の可能性も否定できず腎生検を施行した。腎生検では、採取糸球体は15個、うち2個は全節性硬化を呈していた。残る全ての糸球体にメサンギウム領域の拡大が見られ、1個の糸球体で結節性病変、2個で微小血管瘤、1個に滲出性病変を認めた。光学顕微鏡診断は, 結節型糖尿病性糸球体硬化症であり, 膜性腎症の所見はなかった. しかし蛍光抗体法でIgGが糸球体係蹄に沿ってfine granularに染色されており、膜性腎症疑い, を診断名2とした。後日報告された電子顕微鏡検査では、外注先A社の診断は膜性腎症stageⅠであった。しかし、電顕画像では著明なメサンギウム基質の増加, 上皮下や基底膜内の高電子密度沈着物がみられた。また、沈着物の電子密度がかなり高く、足細胞陥入を疑わせる所見も見られ, 典型的な膜性腎症とは異なっていた。
【臨床側から病理側への疑問点】
1.糖尿病性腎症単独か、他の糸球体疾患が合併しているのか
2.他の糸球体疾患が合併しているとすれば、膜性腎症か足細胞陥入糸球体症のいずれなのか
3.足細胞陥入糸球体症とすれば、これは糖尿病性腎症の続発症なのか、それとも偶発症なのか