演題1.広範な管内増殖性変化を呈した非免疫複合体沈着型ネフローゼ症候群の一例

麻生 久美子、石﨑 友梨、皆川 明大、西園 隆三、菊池 正雄、稲垣 浩子、佐藤 祐二、藤元 昭一

宮崎大学病院腎臓内科

【症例】20歳男性

【主訴】下腿浮腫、検尿異常を伴う腎機能障害

【現病歴】中学生までは検尿異常を指摘されたことは無かった。中学生時体重70kg・高校

中退後体重100-110kgと肥満体型であった。X-1年12月より尿の泡立ちを自覚し血清アルブミン(Alb)低下(3.1 g/dL)、・血清クレアチニン(Cre) 0.92 mg/dLを指摘(検尿未実施)。X年3月に尿蛋白(1+)・尿潜血(1+)、X年7月にAlb 2.2 g/dL・Cre 1.34 mg/dL・尿蛋白クレアチニン比6.1 g/gCreを指摘、X年8月に腎機能障害進行(Cre1.6~2.0 mg/dL)があり、ネフローゼ症候群の精査目的にX年8月下旬に当科に紹介され入院した。

【既往歴】15歳:髄膜炎、17歳:ADHD、19歳:うつ病

【家族歴】腎疾患家族歴: なし

【生活歴】学歴: 高校中退、飲酒・喫煙歴: なし、輸血歴: なし、アレルギー: なし

【身体所見】体重: 105 kg身長: 176 cm、体温: 37.4℃、血圧: 124/67mmHg、脈拍数:98/min、眼瞼結膜貧血なし、扁桃腫大なし、心音・呼吸音異常なし、両下腿に軽度圧痕性浮腫あり

【入院時検査所見】

尿蛋白(4+)、尿蛋白クレアチニン比: 6.76 g/gCre、尿潜血(±)(尿沈査)赤血球1-4/F、Hb: 12.0 g/dL、TP: 5.10 g/dL、Alb : 2.54 g/dL、BUN : 27.6 mg/dL、Cre: 2.20 mg/dL(eGFR: 34.66 ml/min/m 2 )、UA: 9.8 mg/dL、LDL-C: 151 mg/dL、HDL-C: 36.5mg/dL、TG: 341 mg/dL、IgG:358 mg/dL、IgA:155、mg/dL、IgM:126 mg/dL、C3:136mg/dL、C4:38 mg/dL、CH50:42 U/mL、HCV抗体、HBs抗原陰性

【入院後経過】

尿蛋白5-11g/日、Alb 2.54 g/dL、Cre 2.2 mg/dLと腎不全を伴うネフローゼ症候群であり、第7病日に腎生検施行した。腎病理は、観察糸球体31個中に全節性硬化を8個、分節性硬化を3つに認めた。18個の糸球体係蹄内に、分節性から全節性に泡沫細胞を含む管内増殖性変化を認め、いくつかの糸球体に(壁側)上皮細胞増生・糸球体係蹄上に cobblestone 様の上皮細胞配列を認めた。またボウマン嚢への癒着は7つに見られた。間質には、びまん性線維化と尿細管萎縮・単核球浸潤を認めた。免疫蛍光染色ではフィブリノーゲンの沈着のみ認め、免疫グロブリン、補体の沈着はなかった。電子顕微鏡では、Podocyte foot process effacement を広汎に認めたが, 高電子密度複合体の沈着はなかった。第14病日よりパルス療法を含むステロイド・シクロスポリン投与を開始したが無効で(尿蛋白4.8-8.3 g/日、Cre 1.92 mg/dL)、Psychosis も出現したため第22病日より単純血漿交換(28.8 ml/kg、計5回)と第54病日よりRituximab (500 mg、計3回)を併用し、尿蛋白は4-5 g/日程度、Creも1.5 mg/dLと改善傾向となり、第105病日に退院した。現在、当科外来フォロー中である。

【疑問点】

原発性の巣状分節性硬化症(Cellular variant)と判断したが、妥当であるかどうか、その他に考えられる鑑別診断について検討を願いたい。また、電子顕微鏡所見について御教示頂きたい。