演題2:ネフローゼ症候群を発症した成人Fontan術後の1例

芳野 三和1 杉谷 雄一郎1 武市 実奈1 宗内 淳1 高橋 保彦1

久野 敏2

1)地域医療機能推進機構 九州病院 小児科

2)産業医科大学病院 第二病理学

【背景】Fontan手術により複雑心奇形患者の長期生存が可能となったが、Fontan術後の中心静脈の上昇や血栓症、低心拍出に伴う様々な合併症が問題となっている。

【症例】36歳男性、肥満、耐糖能異常あり。完全大血管転位症、肺動脈狭窄に対し1歳時にBlalock-Taussigシャント術、13歳時にFontan手術を施行された。術前SpO2 80%程度の低酸素血症が持続したが、術後SpO2 90台半ばまで上昇した。20歳代より血尿蛋白尿が出現、31歳時に陳旧性腎梗塞を指摘、33歳時に腎科初診。尿潜血±(RBC5-9個/HF)、尿蛋白1+(UP/Cr 0.73 g/gCr)、血清Cr 0.89 mg/dL、IgA 671 ㎎/dLであった。原疾患に対し抗凝固薬・抗血小板薬内服中であり腎生検は施行せずRAS阻害薬内服で経過観察された。34歳で両側小脳梗塞、両側下肢動脈塞栓症、両側腎梗塞、35歳で右腎梗塞を発症し抗凝固療法を行った。血清Crは徐々に上昇し1.2㎎/dL前後で推移した。36歳時に尿所見悪化(RBC50-99個/HF、UP/Cr 2~5 g/gCr)、血清Alb 2.4 g/dL、浮腫(8㎏体重増加)が出現したが利尿剤静注で改善した。しかし、その後も間欠的な高度蛋白尿と急激な体重増加を反復し入院加療を要した。確定診断および治療方針決定のため開放腎生検を行い、総糸球体数74個、全硬化12個、分節硬化5個、メサンギウム細胞増多40個、肥大した糸球体、係蹄内のうっ血像、細動脈硬化を認めた。蛍光抗体法ではIgA沈着を認め、電子顕微鏡では高電子密度沈着物、基底膜肥厚、足突起の消失を認めた。IgA腎症の活動性所見は乏しく、ステロイド副作用のリスクを考慮しRAS阻害薬を継続している。

【疑問点】

1.チアノーゼが消失した後、Fontan循環(静脈圧上昇)や低心拍出が腎組織に与える影響は?

2.間欠的高度蛋白尿の原因の主体は何か。チアノーゼ性腎症 or Fontan循環 or IgA腎症 or 腎梗塞?