第16回 演題1:TMA病変を認めたIgA腎症の1例
松枝修明, 安部和人, 永江洋, 片渕律子
福岡東医療センター 腎臓内科
コメンテーター 長崎大学病院 腎臓内科 北村 峰昭 先生
【症例】50歳 女性
【病歴】これまで毎年の検診で検尿異常を指摘されたことはない。3-4年前から血圧高値を指摘されるも放置していた。
2015年の検診で初めて尿蛋白(±)、尿潜血(2+)を指摘された。
2016年1月の検診で血圧171/103mmHg、沈査赤血球 10-19/HPF、尿蛋白(±)、Cr 0.77 mg/dLであり、3月に近医受診した。
尿蛋白(3+)、尿潜血(3+)を認めたがこのとき左頸部リンパ節腫脹があり、セフカペンピボキシル 300mg/day、ロキソプロフェン処方され5日間内服した。リンパ節腫脹は改善したが、血圧・尿所見改善はなかった。
イルべサルタン処方され3月30日に当科紹介。初診時BP 196/103mmHg、沈査赤血球 >100/HPF、UP/UCr 0.95 g/gCrで腎生検の適応と判断した。血圧コントロール不良のためアムロジピンを追加したところ約2週間後に薬疹が出現した。イルべサルタン・アムロジピンを中止し薬疹は改善。5月18日入院、翌日腎生検を施行した。このとき血圧は171/93mmHgであった。
糸球体は19個採取され3個は全節性硬化に陥っていた。軽度のメサンギウム領域の拡大を12個に、管内細胞増多 を1個の糸球体に認めた。また2個の糸球体にはメサンギウム融解や基底膜の二重化など血栓性微小血管症(TMA)様病変を認めた。
尿細管萎縮、間質の線維化・細胞浸潤は軽度であった。また弓状動脈, 小葉間動脈には高度の線維性内膜肥厚を認め、細動脈の軽度の硝子様変化もみられた。
IFでは、IgA、C3がメサンギウム領域に顆粒状に沈着しており、IgA腎症と診断した。TMA病変を活動性病変ととらえステロイドパルスを施行した。その後潜血・蛋白尿は改善している。
【疑問点】
- 管内細胞増多は1個の糸球体にみられたが細胞性半月体や係蹄壊死などの活動性病変がないにも拘わらずTMA病変をIgA腎症の活動性病変ととらえステロイドパルス療法を行いましたが、果たして妥当だったでしょうか?
- 高血圧を放置していた時期があり、動脈硬化病変も強かったことから、TMA病変はIgA腎症の活動性病変ではなく、循環動態による内皮細胞障害に起因した可能性も考えられました。高血圧による2次性のTMA病変としてARBを中心とした降圧療法を行うという選択肢もあったかと思います。治療に関してもご意見・ご教授いただけますでしょうか?