第17回 演題1:ADCK4遺伝子異常によるステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の兄弟例
大塚泰史、佐藤忠司、岡政史、大串栄彦、陣内久美子、松尾宗明
佐賀大学医学部小児科
国立病院機構嬉野医療センター小児科
コメンテーター 産業医科大学病院 病理学 教授 中山 敏幸 先生
産業医科大学病院 病理学 名和田 彩 先生
【症例1】兄
6歳の学校検尿で蛋白尿4+を指摘された。ステロイド剤投与を行ったが抵抗性であり、尿蛋白は続いた。7歳児の腎生検では、軽度メサンギウム増殖性腎炎でありCyAを開始し、尿蛋白の抑制に比較的有効であった。10歳の再生検でFSGSと診断。その後も尿蛋白は2+から4+を推移した。13歳、血清クレアチニンが軽度上昇したためCyAを中止した。その後も上昇が続いており15歳1.25mg/dl(eGFR 45 ml/分)である。
【症例2】弟
3歳児健診で尿蛋白3+を指摘された。ステロイド抵抗性であり、4歳の初回腎生検では軽度メサンギウム増殖性腎炎を示した。 CyAを開始し、尿蛋白抑制に有効だった。9歳の再生検でFSGSと診断。 9歳からsCrが急速に上昇。10歳で末期腎不全となり、当院に紹介。11歳で腹膜透析を導入した。
【原因検索】
末梢血DNAを用いてエクソーム解析を行い、SRNS、FSGS、腎障害に関連する92遺伝子を包括的に検討した。疑われた変異は、家族の末梢血DNAにてSanger法で確認した。
【結果】兄弟はADCK4(19q13.2)の点変異(c.737G>A)をホモ接合性に有し、両親はヘテロ接合体であった。この変異頻度は0.02%であり、また遺伝子異常予測サイトでも病原性であり、本疾患の原因と判断した。
【ミトコンドリア異常症の精査】
血中CoQ10濃度では、判断ができない。腎不全のある弟は高値です。
【兄の線維芽細胞によるミトコンドリア酵素活性】
■ミトコンドリア呼吸鎖複合体(I~IV)の酵素活性は、皮膚線維芽細胞において、いずれの呼吸鎖活性も正常。
■Seahorse XF96を用いた酸素消費量(OCR; oxygen consumption rate)では、Glucose培地ではOCRの低下を認めませんが、Galactose培地で負荷後の最大呼吸(MRR; maximum respiration rate) において、OCRの軽度低下を認め (コントロールの79/75%)、正常よりもストレスに弱い所見でミトコンドリア異常も否定できない。
【問題点】
- CoQ10生成異常によるネフローゼ症候群は近年、明らかになってきている。ADCK3および4は、ミトコンドリアに作用するCoenzymeQ10(CoQ10)生成に関与する因子であり、ADCK3の変異は、小脳失調や脳症を発症するが、ADCK4の変異はFSGSを呈し、青年期に腎不全に至る。ADCK4異常症は、痙攣などの腎外症状も指摘されているが稀であり、基本的にステロイド抵抗性ネフローゼ症候群のみを発症する。
- 皮膚や心筋などとは異なり、PodocyteではADCK4のみが発現しているため、ADCK4変異がある場合、CQ10生成障害によりネフローゼ症候群を発症するとされている。
- 一方でCoQ10の大量投与が蛋白尿を改善させる可能性が示唆されており、早期診断が治療につながる可能性がある。
- 今回ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の兄弟例の遺伝子解析から、ADCK4遺伝子異常を見出した。本疾患は、遺伝子解析から明らかになってきた疾患であるが、ミトコンドリアの形態学的変化や、ミトコンドリア酵素などの機能解析の変化については明らかにされていない。そのため本症例について、病理学的見地から診断を言及できるかを検討いただきたい。