第18回 演題2:Fabry病が疑われるIgA腎症の1男児例

平松美佐子1)、植村篤実1)、北村博司2)、百崎謙3)、中村公俊3)

1)国立病院機構西別府病院小児科、2)国立病院機構千葉東病院腎病理研究部、3)熊本大学大学院生命科学研究部小児科学分野

コメンテーター:佐賀大学医学部病因病態科学講座 臨床病態病理学分野 青木 茂久 先生

【症例】8歳男児(小学校3年生)。

【主訴】学校検尿で尿潜血3+(沈渣赤血球25-30/HPF)。

【既往歴】正常発育。肉眼的血尿・紫斑・浮腫のエピソードなし。四肢の痛みを訴えることはないが、汗をかきにくいかも、とのことであった。常用薬・治療中の疾患なし。

【家族歴】母:右腎萎縮、左腎代償性肥大。他の腎疾患や心疾患、突然死の家族歴なし。同胞は姉1人、弟1人。同居の祖母、両親、姉、弟:結核治療歴あり。

【生検時所見】尿潜血2+ (RBC 20-29 /HPF)、赤血球、顆粒、硝子、上皮円柱を認める。U-pro/U-cre 7/57.88。一日尿蛋白0.06 g。TP 7.1 g/dl, alb 4.4 g/dl, T-cho 214 mg/dl, TG 55 mg/dl, BUN 16.3 mg/dl, UA 4.2 mg/dl, cre 0.42 mg/dl, IgA 281 mg/dl, QFT(+)。胸部Xp, CTにて肺門部リンパ節石灰化を認めた。

【腎組織】光顕でパラメサンギウムにdepositを散見し、糸球体15個中2個に軽度のメサンギウム増殖を分節性に認めた。蛍光免疫染色でメサンギウムにIgA, C3が顆粒状、びまん性、全節性に強陽性、IgGが陽性であった。IgA腎症(H-grade I (A); M0 E1 S0 T0)と診断した。電顕ではパラメサンギウムを中心にメサンギウムに高電子密度物質の沈着を認めた。Podocyteにdenseな沈着物を認めたが、層状ないし縞状の構造は認めなかった。

【経過】腎生検後に潜在性結核感染症(LTBI)と判明し、ただちにイソニアジド内服を開始した。イソニアジド開始3か月後にプレドニゾロン、ミゾリビン、ジピリダモール、ワーファリンを開始。1週間後には尿所見は正常化した。現在(腎生検から2年後)、ジピリダモール単剤で尿所見は正常のままである。

【濾紙血αガラクトシダーゼ活性】初回: 10.5、再検: 23.7 AgalU (cutoff: 男性<12.0, 女性<20.0)。

【眼科・皮膚科】所見なし。

【問題点・疑問点】

  • 本症例で電顕でpodocyteに認められたdenseな沈着物は、Fabry病に典型的なzebra body(縞状構造)やミエリン様(層状)構造とは異なっていたが、Fabry病で認められる沈着物の中にはdenseなdepositが混在することがある。Fabry病の可能性、または脂質代謝異常や薬剤による変化の可能性が考えられるか。
  • IgA腎症で、本症例のような電顕所見が説明できるか。
  • Fabry病疑いの精査を進めるとすれば、末梢血白血球や繊維芽細胞での酵素活性測定、血中・尿中のFabry病蓄積物質(Gb3またはlyso-Gb3)測定、腎または他組織のGb3またはlyso-Gb3免疫染色、遺伝子解析等が考えられるが、どこまで検索すべきか。
  • 慎重に経過を観察し、Fabry病の他の症状が出現した際、思春期以降に腎生検を再度実施するべきか。